肝炎について
肝炎には幾つかの種類があり、この中には肝臓の機能を著しく障害するものもあります。
肝臓は「沈黙の臓器」と言われるように、問題が生じていても自覚症状の現れないことが多くあります。
そのため、病気が進行するまで見過ごされやすいため、適宜検査をし、早めに適切な治療を受けることが大切です。
肝炎は大きく以下のものに分類されます。
ウイルス性肝炎
ウイルス性肝炎は、肝炎ウイルスに感染することによって肝機能が障害されてしまう疾患です。
肝炎を引き起こす原因ウイルスにはA・B・C・D・E型があります。
A型・E型肝炎は食べ物を介して感染します。まれに重症となることがありますが、殆どは一過性の肝障害で回復し、慢性化することはありません。
B型・C型・D型肝炎は血液や体液を介して感染します。D型肝炎は日本ではごく少数です。B型肝炎とC型肝炎は慢性化が問題となります。
今後は非アルコール性脂肪肝炎(NASH)を背景とした肝がんが増えてくることと思いますが、肝がんの原因は現在のところ60%がC型肝炎、15%がB型肝炎です。
引き続きウイルス性肝炎にも注意が必要です。
肝炎ウイルスに感染しているかどうかは、血液検査で知ることができます。
特にB型肝炎とC型肝炎については、川崎市に在住の方は無料となる助成金制度(一回のみ)がありますので、検査をお勧めします。
A型・D型・E型肝炎については、なんらかの症状があって、これらのウイルス感染が疑われる場合に検査します。
B型肝炎
日本では130-150万人の患者様が報告されています。
子供への感染はHBV陽性の母親から産まれる際に起こる母子感染が一般的です。2016年10月以降に行われている0歳児のHBVワクチン接種によって、今後新規感染者数は減少していくことが期待されています。出生後もHBV陽性の父親や母親から血液や体液を通して感染が成立することがあります。
大人での感染はHBV陽性のパートナーとの性交渉の際に感染することが一般的です(水平感染と呼ばれます)。年間約1万人の新規感染者が報告されています。
まずは、ご自身が感染しているかどうか確かめることが大事です。
検診でHBsAgが陰性でもHBcAbが陽性なら既感染です。
HBVは一度感染すると、核内のcccDNA(covalently closed circular DNA)は排除されることがありません。
現在、飲み薬として使用される核酸アナログ製剤は、コア粒子から不完全二重鎖DNAを形成する過程を阻害しますが、cccDNAを排除することはできません。
既感染の方は通常の免疫状態でHBVの再活性化はほぼありませんが、ステロイド・免疫抑制剤・抗がん剤などの治療を行うと、HBVの再活性化の恐れがあります。
再活性化による劇症肝炎は非常に重篤です。
その他に、HBeAg陽性の方からの水平感染での劇症肝炎も報告されております(B型急性肝炎の1%)。
また、近年、急性肝炎からの慢性化も問題となっています。特にGenotype Aという遺伝子型では10%が慢性化すると報告されています。
何らかの理由で、現在、感染されているかたも、HBsAgやHBV DNAの低い人は発癌率が低下することが知られていますので3〜6ヶ月ごとの定期的な採血と画像検査(腹部超音波、CT、MRIなど)による経過観察が必要です。
場合によっては内服薬での加療が必要になります。内服開始となった方は、自分の判断で内服を中止してはいけません。HBVのリバウンドを生じ、重症肝炎も報告されています。
C型肝炎
日本には100万人の患者数が報告されています。
現在、慢性肝炎の患者様では内服薬を8週もしくは12週続けることで、95%以上は血中から排除されます。
ほぼ全員の方にウイルス排除の治療をお勧めします。ウイルスの遺伝子型(Genotype)と肝臓の状態により、使用する薬剤と期間が異なります。
HCV排除が成功したあとでも肝がんが発生した報告がありますので、HCV排除が成功したあとでも6ヶ月ごとの採血と画像検査(腹部超音波、CT、MRIなど)による経過観察が必要です。
アルコール性肝障害
飲酒による脂肪肝があるところに飲酒を続け、さらに進行し悪化した状態がアルコール性肝障害です。
主な症状は、倦怠感や吐き気、黄疸などですが症状が現れるようになるのは進行している状態です。
アルコール性肝障害の中には、まれに、深刻なアルコール性肝炎であるケースがあります。
アルコール性肝障害に炎症反応が加わった状態で、適切に治療されなければ、急に命に関わることもある重篤な疾患です。
アルコール性肝障害があるのも関わらず、飲酒がやめられないと肝硬変となります。
日本酒7合を毎日10年飲むと約20%に、毎日15年飲むと約50%が肝硬変となります。
脂肪肝
お酒を飲まない人が脂肪肝炎になり、肝硬変、肝がんへと進行するケースがあります。
これは非アルコール性脂肪肝炎と呼ばれ、自覚症状もほとんどありません。
主な原因は、肥満、糖尿病、脂質異常症などです。
治療にあたっては、まず生活改善に取り組むことが大切です。低エネルギーで栄養バランスの良い食事を心掛け、適度な運動を生活に取り入れます。
詳しくは脂肪肝のページを御覧ください。
自己免疫性肝疾患
原自己免疫性肝炎(AIH)
日本では3万人の患者数が報告されています。多くは50歳から60歳の女性です。慢性に経過する肝炎で、肝細胞が傷害されていく病気です。
原因はわかっておらず、他の自己免疫疾患を合併することもあります。食欲不振や浮腫、おなかの張りがみられることがありますが、無症状の場合が多く、採血にて抗核抗体やIgGを測定します。
診断には採血や腹部エコー、CTを使用しますが、入院して針で肝臓の組織を一部採取する肝生検による組織学的な評価が必要なこともあります。
治療は副腎皮質ステロイドの内服が基本となります。多くの患者様で有効ですが、長期の内服が必要になります。
原発性胆汁性胆管炎(PBC)
日本では5〜6万人の患者様が報告されています。肝臓内の胆管が破壊され肝臓内に胆汁がうっ滞し、これにより肝細胞が破壊される病気です。
胆管が破壊される原因はわかっておらず、他の自己免疫疾患を合併することもあります。無症状の場合が多く、採血にて抗ミトコンドリア抗体を測定します。皮膚のかゆみや浮腫、おなかの張りがみられることがあります。
診断には採血や腹部エコー、CTを使用しますが、入院して針で肝臓の組織を一部採取する肝生検による組織学的な評価が必要なこともあります。食道静脈瘤が多くみられるので、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)による評価が必要です。
治療は肝硬変に進まないように、肝庇護剤の内服が基本となります。肝硬変に進んでしまった場合には、肝硬変の治療を行います。肝硬変が進んでしまい、肝不全になっている場合は、肝移植の検討が必要なこともあります。
薬剤性肝障害(DILI)
解熱剤などの薬による肝障害が最も多いですが、基本的には、どんな薬でも起こります。
飲み薬だけでなく、栄養剤、塗り薬、毛染め等でも起こることがあります。
診断には、服薬内容と服薬時期などの詳細なお話を伺うことが非常に重要になります。
肝硬変
肝硬変は、原因を問わず、肝炎が進行した状態です。肝細胞が壊死と再生を繰り返すことで、肝臓が繊維で置き換わり、硬く小さくなる病気です。
肝硬変に至るものは75%がウイルス性肝炎(B型肝炎、C型肝炎)、2%が非アルコール性脂肪肝炎(NASH)です。
肝硬変が更に進行すると肝不全という状態になり、肝機能の低下とともに、だるい、疲れやすい、食欲不振、黄疸などの症状が現れます。
一度肝硬変になると、もとの肝臓の状態には戻りません。また肝硬変からは肝がんなどを合併することも多いので、定期的な採血や腹部エコー、CTやMRIでの画像検査をお勧めします。